著名商標の「跨類保護」とは何か「ルイ・ヴィトン商標権侵害訴訟」

 ルイ・ヴィトンが、中国企業との登録商標の侵害訴訟に勝利したと聞きました。賠償額も大きかったそうです。具体的な内容を教えてください。

 話題となっているのは、フランスの高級ブランド「ルイ・ヴィトン(LV)」が、中国発の急成長茶飲料チェーン「茉莉奶白(Molly Tea)」を相手取った商標権侵害訴訟です。2026年6月末〜7月初め、江蘇省の蘇州市中級人民法院が第一審判決を下し、中国の知財・ビジネス業界で大きな話題を集めています。

判決と賠償額
 裁判所は、茉莉奶白がロゴやパッケージに用いた「四つ葉の幾何学花柄(四弁花)」が、LVのモノグラムを構成する登録商標7件を侵害したと認定しました。命じられた賠償額は総額1,030万人民元(約150万米ドル/約2億4,000万円)という高額なもので、内訳は経済的損失に対する賠償1,000万元、合理的な訴訟費用(権利行使費用)30万元です。加えて共同被告の関連店舗が最大10万元の連帯責任を負い、茉莉奶白には侵害の影響を払拭するため、公式サイト・Weibo・WeChat・小紅書(Xiaohongshu)・Douyin など6つの主要プラットフォームのトップページへ是正声明を掲載することも命じられました。

なぜこれほど高額になったのか
 背景には、被告側の「主観的な悪意(故意)」と、中国の「著名商標の跨類(跨类)保護」があります。茉莉奶白は2022年以降、この四つ葉柄の商標登録を繰り返し出願しましたが、国家知識産権局(CNIPA)からLV商標との類似を理由に再三却下されていました。それでも合法的な権利確定ができないと認識しながら、全国2,400〜2,600店舗の看板・カップ・保冷バッグなどで大々的に使用を続けた事実が重く見られ、懲罰的賠償の適用要素となりました。また、高級ブランドとミルクティーという全く異なる業種であっても、極めて著名なLVのデザインを使うことで「提携・コラボがある」と消費者を誤認させる(関連関係の混淆)と判断された点も、厳しい結論につながりました。

「著名商標の跨類保護」を支える法的根拠
 著名商標(馳名商標)は、その極めて高い商業的価値と市場への影響力から、格別の保護を受けています。現行『商標法』第13条は、関連する公衆に広く知られている商標について、権利者が本法の規定に従って著名商標の保護を請求できると定めています。同条では、同一でない、または類似していない商品に登録を申請された商標であっても、他人がすでに中国で登録している著名商標を複製・模倣・翻訳したものであり、公衆を誤導し、当該著名商標の登録人の利益に損害を与えるおそれがある場合には、登録を認めず、その使用を禁止するとしています。本件で問われた「跨類保護」も、この規定を土台とするものです。
 さらに注目すべきは、著名商標へのフリーライド(ただ乗り)や識別性の希釈化・毀損といった不正行為への抑制を強めるため、2027年1月1日に施行される新商標法で著名商標の保護制度が改善される点です。
 同一でない、または類似していない商品において、他人の著名商標を冒認出願(先取り登録)することを禁止する規定が、登録の有無を区別せず一律に冒認出願を禁止する方向へと拡大されます。中国で登録されているか否かにかかわらず、著名商標を構成していればクラスを超えた保護が適用できるようになる。これは中国の商標に対する厳格な保護姿勢を体現していると評価されています。

中国国内の反響と今後
 本件は本件はWeibo等で300万回以上閲覧されるなど論争を呼びました。一部のネットユーザーからは、「LVの四つ葉柄自体が、中国・隋唐時代の『宝相花文』や琵琶の装飾などアジアの伝統文様に由来しており、古代の文様を独占するのはおかしい」とLV を批判し茉莉奶白を擁護する声も上がっています。一方で、起源はどうあれ現代の法制度では、先願主義、すなわち先に登録した者の権利が保護されるべきで、茉莉奶白の便乗は明白なルール違反だとして判決を支持する意見も多数あります。
 現在、茉莉奶白はオンライン上のロゴを黒色からカラーに変更し、第一審判決を不服として控訴する意向です。しかし専門家は「単なる色変更では根本的な侵害リスクは回避できない」と指摘しており、二審でも敗訴が確定すれば、全店舗の看板・包装資材の全面刷新が必要となり、莫大なコストと事業への打撃になると警鐘を鳴らしています。
 本件は、新興ブランドが「有名ブランドの視覚的要素を借りて」認知度を高める手法に対し、司法が極めて厳しい姿勢を示した画期的な事例です。今後、企業にはブランド構築の初期段階からの厳格な商標調査とコンプライアンス徹底が、いっそう強く求められます。
※参考:
『中華人民共和国商標法』第13条(2019年改正・現行)
関連する公衆に広く知られている商標について、その保有者が自己の権利を侵害されたと考える場合には、本法の規定に
従って著名商標(馳名商標)としての保護を請求することができる。
 同一または類似の商品について登録を出願された商標が、他人が中国で登録していない著名商標を複製・模倣・翻訳したものであって、混同を生じさせやすい場合には、登録を認めず、かつその使用を禁止する。
 同一でない、または類似しない商品について登録を出願された商標が、他人が既に中国で登録している著名商標を複製・模倣・翻訳したものであって、公衆を誤導し、当該著名商標の登録人の利益に損害を与えるおそれがある場合には、登録を認めず、かつその使用を禁止する。
国家知识产权局 中华人民共和国商标法(2019年修正)

  以上