トヨタが上海で初の独資企業設⽴、レクサスEV生産へ

トヨタが上海で、レクサスのEV(電気⾃動⾞)⼯場を設⽴すると新聞で報道されていました。中国のEVはうまく⾏っていないイメージが強いのですが、なぜ、トヨタが今さらEVに⼒を⼊れるのでしょうか︖

 トヨタが上海で投資したレクサス(雷克萨斯)ブランドのEVと⾞載電池の研究開発・⽣産拠点を新たに設⽴するというのは、極めて⼤きな戦略的転換です。「雷克萨斯(上海)新能源有限公司」(レクサス(上海)新エネルギー有限公司)は、トヨタにとって「初の中国完全子会社(独資企業)」となり、外資によるEV専業企業としてはテスラに次いで2 例目です。
 これまでEVに慎重だったトヨタが、ここにきて中国・上海にEV関連の⼤規模な投資を決めた背景には、いくつかの重要な「狙い」が読み取れます。同社は最近、EV戦略を加速させており、2030年までにEV販売⽐率を引き上げる目標を出しています。また、「技術的な多様性(マルチパスウェイ戦略)」を掲げていて、EVも「選択肢の一つ」として取り込むと公表しています。ただ、今回のトヨタの投資は、単なる「EV ⼯場の設⽴」ではないと業界の専門家はみています。

2025 年の上海モーターショー︓レクサス、ラグジュアリーセダン『ES』

――― 以下に情報を整理してみます。
 4 月16日付け日経新聞の報道では、⾒出しは「トヨタ、上海にレクサス新会社の用地 260億円で確保」となっています。しかし、現地の報道によるとトヨタの投資額は実に3,000億円に達する可能性があります。
 トヨタ⾃動⾞が中国・上海市で進めるレクサスEV⼯場プロジェクトの投資額は、以下の2つの主要部分に分かれています。

1.用地取得費用
●13億元(約260億円)➡これば新聞の⾒出しとなっている⾦額です。
 上海市南⻄部の⾦⼭区に112万平⽅メートルの⼟地を取得するために投じられました。⼟地利用期間は50年で、⼯場建設の基盤整備に充てられます。

2.工場建設および事業全体の投資額
2025 年4月23日
 ●146億元(約2800億円)
 電気⾃動⾞(EV)および⾞載電池の研究開発・⽣産・販売を目的とした総投資額です。2027年の⽣産開始を目指し、年間生産能⼒は10万台程度を計画しています。

上海金山区工場用地

 このうち、新会社「レクサス(上海)新エネルギー」の資本⾦は1071億円で、トヨタが単独出資しています。これは⽶国ノースカロライナ州の電池⼯場とは別枠の投資であり、中国プロジェクトに特化した資⾦配分。上海市政府は外資の⼤型投資を積極的に誘致しており、テスラのギガファクトリーに続く、重要プロジェクトとして位置付けられています。
 総額では用地取得+⼯場開発で約3060億円(260億円+2800億円)と推計されていますが、公式発表では「146 億元(2800億円)」がプロジェクト全体の投資額として強調されています。

3.トヨタの狙い
 トヨタはこれまで、EVよりも⽔素やハイブリッド⾞に注⼒してきたことで知られています。その背景には、電池原料の供給不安やインフラ整備の遅れ、航続距離の問題など、EVの限界に対する慎重な姿勢がありました。しかし、ここ数年、中国市場を中⼼にEVの技術⾰新と販売台数の急増が進み、世界的な潮流が変わりつつあります。
 中国のEV市場はすでに世界最⼤であり、2024年には新⾞販売の40%以上がEVとなっています。トヨタは中国での販売が低迷する中、レクサスというプレミアムブランドを使い、中国市場に合わせたEVを現地で⽣産し直販することで、再起を図ろうとしています。
 ⻑江デルタ地域の⾃動⾞関連サプライチェーン企業とも連携を進めており、レクサスEVの現地調達率を95%以上にする計画です。これにより、コスト削減と⽣産効率の向上を図る戦略を進めています。
 また、レクサスはプレミアムブランドとして、中国の富裕層に人気があります。EVシフトに遅れると、BMWやメルセデスなどの競合に対して劣勢になるため、「レクサスブランドでのEV展開」が急務となっています。

4.なぜ「中国」なのか︖
 地政学的リスクもトヨタの判断に影響していると指摘されています。⽶国は関税政策を再び強化する姿勢を⾒せており、特にカナダ・メキシコからの⾃動⾞輸⼊への制限が懸念されています。トヨタは両国に⼯場を持ち、⽶国向けの出荷が多いため、関税が実施されれば⼤きな打撃を受けます。
 一⽅、中国では新エネルギー⾞政策が国家戦略として後押しされており、インフラや⽀援制度も充実しています。今回、トヨタが進出する上海市⾦⼭区は、交通・物流の利便性に加え、政策的な優遇措置も⼿厚い戦略的拠点です。中国の報道によると、⾦⼭区にすでに159社の⾃動⾞関連企業が集積しており、そのうち、96社が規模の大きい企業であり、雷克萨斯(レクサス)の新⼯場向けに本⼟供給率95%以上の部品調達戦略が進められています。

 また、⾦⼭区がEV産業の拠点化を進めているため、周辺の⻑江デルタ地域の企業が⾦⼭区への進出を加速しています。これにより、トヨタは競争⼒を⾼め、EV市場でのポジションを強化しようとしているようです。ここを拠点にすることで、現地市場に応える製品開発・⽣産が可能になるだけでなく、将来的に欧州などへの輸出も視野に⼊っています。

※参考サイト
中国メディアの報道
・看看新闻Knews : 雷克萨斯“掘⾦”⾦⼭ 新上海速度赶超“前浪” (レクサス、⾦⼭で「⾦脈を掘る」 新上海スピードで「先駆者」を追い越す)4月22日
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1830077608907611996&wfr=spider&for=pc
トヨタは上海市⾦⼭区において、レクサスブランドの電気⾃動⾞(EV)およびバッテリーの研究開発、⽣産、販売を⾏う新エネルギー⾞(NEV)プロジェクトに約146億元(約20億ドル)投資する契約を締結しました。

・新浪財経 (Sina Finance)︓丰田“押宝”上海独资⼯⼚,⾦⼭晋升新兴汽车产业制造集群(トヨタ、上海の独資⼯場に「賭ける」、⾦⼭が新興⾃動⾞産業の製造クラスターに昇格)4月22日
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1830076576673192748&wfr=spider&for=pc
・・・他多数
米国メディアの報道
・AP通信: 「トヨタ、四半期利益急増の中、中国と⽶国でEV・バッテリー事業を推進」。
・ AP Newsビジネスインサイダー: 「トヨタ、中国市場での転換を図るためイーロン・マスクの戦略を採用」。
欧州メディアの報道
・フィナンシャル・タイムズ: 「Western carmakers plot China comeback with local knowhow」
 トヨタを含む欧⽶の⾃動⾞メーカーは、中国市場での競争⼒を回復するため、現地の技術やパートナーシップを活用した戦略を展開している。 (有料記事)

  
以上