抜け駆け出願、横取り出願、冒認出願…の違い

中国では被害が多いとされている抜け駆け出願は、他にも横取り出願、冒認出願と言われることがあります。これらは同じ意味なのでしょうか︖あるいは何か違うニュアンスがあるか、教えてください。

 今回は、前回に引き続き、冒認出願された商標に対する「三年間不使⽤取消」の具体的な申請について説明を⾏い、その後に抜け駆け出願、横取り出願、冒認出願の違いを解説してみます。

■前回の冒認出願被害の対策、「三年間不使⽤取消申請」の流れ
 1)会社謄本の履歴事項全部証明書とその中国語翻訳文を準備。
 2)中国商標局に「三年間不使⽤取消申請書」を提出。
 3)商標局は今回の出願権利者である広州●●●貿易に所定時間内に商標使⽤証拠を提供するよう通知。
 4)広州●●●貿易は、法で規定された3年の期限内に対象商標の中国における 3 年連続の使⽤証拠を提出。
 5)同社が訴えに応じなかった、あるいは、商標局に提供した証拠資料で商標の使⽤を証明できない場合は、中国商標局は当該商標を取り消し、無効を公告する。
 6) 受理通知書は 1-2 ヶ⽉以内に発⾏され、結果の通知書は 6-9 ヶ⽉以内に発⾏の予定。
※以下のリンク先は、過去に掲載した、「三年間不使⽤取消審判」請求で取り戻すことに成功した他の事例である。
 抜け駆け出願された商標を「三年間不使⽤取消審判」請求で取り戻す
 https://chinawork.co.jp/fqa20230906/

■抜け駆け出願、横取り出願、冒認出願・・・いったい何が違うのか︖
 中国では、「抜け駆け出願」、「横取り出願」、「冒認出願」といった商標権をめぐる不正⾏為が増加している。いずれも他者の権利を侵害する悪意のある出願⾏為を指す点で共通しているが、文脈や対象分野によってニュアンスや⽤法が異なる。以下にそれぞれの定義と違いを整理します。

 登記情報と以下のスクリーンショットをご覧いただくとわかるが、広州市●●●貿易は 4 つの商標を中国で登録している。貴社の商標の他に、日本の商標が二つ、米国商標の商標1つがあった。
 これらの商標を中国の各サイトで検索したところ、この会社の使用跡は発見されず、広州市●●●貿易が外国企業の商標を冒認出願した行為は明らかである。

  1. 抜け駆け出願
     他社が今後、使⽤・登録する可能性の⾼い商標を、先回りして出願する⾏為。商標の知名度や将来の商業的価値を⾒越して、競合や悪意のある第三者が登録を試みる。先駆け出願の目的は、将来的な商標利⽤の障壁を作り、正当な権利者に商標の買い取りを要求すること。また、 利益目的で転売するためである。
     主な被害例としては、日本企業がまだ中国で出願していないブランド名を中国の企業や個人が先に登録し、交渉で⾼額な買い取り⾦を要求すること。また、新製品発表前に商標が第三者に占有され、市場展開に支障をきたすこともある。
  2. 横取り出願
     他社がすでに利⽤している商標やブランド名を知った上で、それを故意に⾃分のものとして出願する⾏為である。特に「悪意登録(恶意注册)」と同義で使われ、商標だけでなく特許分野でも⽤いられる。中国では、知的財産権の執⾏⼒不⾜も存在しており、地方レベルでは横取り出願を⾏っても罰せられるリスクが少ない。
     横取り出願の目的は、①権利を盾に商標使⽤の制限を迫る、②ブランドの評判や市場シェアを奪う、③模倣品や偽物の販売に利⽤する・・・である。主な被害例は、日本企業が国内で認知されているブランドを中国で展開する際、すでに第三者に登録されており、使⽤中止や損害賠償を求められる。また偽ブランドが合法的に販売されるようになる等。
  3. 冒認出願
     他社のブランドや商標を、悪意を持って⾃分のものとして申請・登録する⾏為。商標分野では「冒認商標出願」と呼ばれる。「横取り出願」と似ているが、特に悪意が強調される場合に使われる。直接的な妨害⾏為や、企業のブランド価値を故意に損なうことを狙ったり、⻑期的な嫌がらせや競争妨害を目的とすることもある。
     主な被害例は、商標だけでなく、ロゴデザインやスローガンなど広範囲な権利を冒認され、法的に対応せざるを得なくなるケース。また、対応の遅れにより市場シェアを失い、ブランド価値が損なわれることもある。

 以上のように、⽤語は重なる部分もありますが、対象領域や⾏為の悪質性、法的対応の焦点によって使い分けられている。特に「抜け駆け出願」は商標分野の囲い込み戦略、「冒認出願」は特許の名義不正取得に特化した文脈で使われる傾向が顕著である。

 これらの対策としては、一般的には以下の手法があり、それを組み合わせて、中国市場での商標トラブルを未然に防ぐことが重要である。

  1. 早期出願: 中国で事業展開を計画する前に、可能性のある商標を全て事前登録しておく。
  2. 監視体制: 中国商標局の動きをモニタリングし、不審な出願を早期に発⾒する。
  3. 法的措置: 異議申⽴や無効審判を活⽤し、不正登録を排除する。
  4. 専門家やコンサルティングの活⽤: 専門家や法律事務所を活⽤して、商標の維持・保護を強化する。

 中国は世界最大の市場であり、企業間や個人間の競争が非常に激しいところです。加えて⾃由経済の制度が未成熟であり、 出願審査のプロセスや異議申し⽴ての仕組みが複雑。一方で中国政府は法整備の強化に⼒を⼊れており、知的財産権に関する法律を改正し、罰則を強化しています。また、審査プロセスを透明化し、出願審査の効率化を⾼めることで不正⾏為を防止しようとしています。
 抜け駆け出願や横取り出願は、中国の競争の激しさや制度上の課題を反映した現象です。しかし、政府や企業の努⼒により、これらの問題は徐々に改善されてきています。企業は、早期出願や監視体制の構築など、積極的な対策を講じる必要があります。

 
以上