第15次5カ年計画と次期産業政策について

中国の軍⺠両⽤品(デュアルユース)に関する禁輸措置が実施されました。日本企業にどのような影響があるのか、教えてください。

 3 月5日開幕の全人代を受け、第15次5カ年計画(2026〜2030年)が本格始動しました。全体⽅針、そして「中国製造2025」に続く次の産業振興の⽅向性を、どう⾒るべきでしょうか。

1)「質の⾼い発展」への戦略的転換
 最も⼤きな変化は、これまでの「規模・スピードの拡⼤」から「質の⾼い発展」へと完全に舵を切ったことです。2026年のGDP成⻑率目標は「4.5〜5.0%」と前年の5%前後から実質的に引き下げられ、30年以上ぶりの低⽔準目標となりました。
 これは経済減速の単なる追認ではなく、不動産不況や⽶国の関税引き上げといった外部ショックへの耐性強化と、債務依存からの構造転換を優先する「戦略的忍耐」の表れです。また「国家発展計画法」が審議され、5カ年計画の策定・実施プロセス全般において中国共産党の指導的役割が法的に義務付けられました。

2)「AI Plus」と未来産業——技術的⾃⽴の全体像

 最優先課題は「現代化産業体系の構築」による技術的⾃⽴です。⽶中対⽴によるデカップリングを念頭に、半導体やバイオ医薬品などのチョークポイント技術へ国家資源を集中投入する「新型挙国体制」を敷いています。特に注⼒されるのが「AI Plus⾏動」という包括的計画。AIを全産業のインフラとして統合し、2030年までに次世代スマート端末の普及率を90%以上に引き上げる目標を掲げます。BCI・量⼦技術・6G・ヒューマノイドロボット・低空経済などを「未来産業」として育成し、デジタル経済のGDP比を12.5%まで⾼める計画です。

3)「反内巻」政策——過当競争の構造的是正
 新たな⽅針で強く打ち出されたのが「反内巻(過当競争の是正)」政策です。中国製造業では過剰生産による無秩序な価格競争が深刻化しており、企業収益の悪化・デフレ圧⼒・ダンピング批判という貿易摩擦の根本原因となっています。政府は生産能⼒の調整と価格監視を通じて過度な消耗戦を是正し、生産性の低い企業を淘汰する⽅針です。競争⼒のある優良企業がイノベーション投資にリソースを集中できる健全な収益環境への改善を目指しています。

4)人口動態への適応——ロボットとシルバー経済
 人⼝減少と急速な⾼齢化への適応は最優先課題の⼀つです。労働年齢人⼝の平均教育年数を11.7年に、平均寿命を80歳に延ばすという具体的な数値目標が設定されました。
 労働⼒不⾜の解決策として「具現化AI(フィジカルAI)」やロボットの導入実験が急ピッチで進みます。製造・物流・医療にAIエージェントを展開し生産性を劇的に向上させる狙いです。同時に、介護ロボットやスマートヘルスケアを応用した「シルバー経済」の戦略的育成も急いでいます。

5)日本企業は今後、どう動くべきか
 中国が「科学技術⾃⽴⾃強」を掲げサプライチェーンの完全⾃⽴を狙う中、日本の素材・製造装置メーカーには⼀時的な特需が⾒込める半⾯、⻑期的には中国企業との競合激化で市場から排除されるリスクも孕んでいます。
 知財政策も「量の拡⼤」から「⾼価値特許の取得・活用」へと質重視に転換。日本企業は知財ポートフォリオ戦略やデータガバナンスの⾒直しなど⾼度なリスク管理が不可⽋となります。
 これからの中国ビジネスは、
  ・中国で取る売上
  ・中国に渡してよい技術
  ・中国外で守る中核機能

 この線引きが、経営の核心となります。そして、ハイテク・グリーン転換・シルバー経済といった政策合致分野での戦略的連携をどう模索するかが鍵となります。15次5カ年計画で最もはっきり⾒えてきたのは、中国がこれまでの「規模の拡⼤」から、「質の⾼い発展」へと明確に軸⾜を移したことです。
 経済成⻑は不動産不況や対⽶摩擦といった外部圧⼒を前提に、無理に数字を追うのではなく、経済の⾜腰を鍛え直す⽅向に入ったと⾒るべきです。いわば、中国は「速く⾛る経済」から「崩れにくい経済」へと設計思想を変え始めています。
 そのため、「中国はまだ⼤市場だが、勝ち⽅が変わった。日本企業は“政策を読む⼒”と“守りながら攻める設計⼒”が必要になる」ということです。

  以上