輸出専用の OEM 製品が中国国内で商標権侵害
- 中国企業に委託して OEM 製品を製造します。その際に、製品の名称の商標権を登録しておく必要はあるでしょうか。中国国内市場では流通せず、全量輸出する計画です。
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最近(2019 年)のミャンマーの MEI HUA COMPANY LIMITED(美華社)が関与した「HONDAKIT」事件が参考になるので紹介します。中国における OEM ⽣産と商標権侵害の問題を巡る重要な判例とされています。
ミャンマーの MEI HUA COMPANY LIMITED が関与し、「HONDAKIT」という商標を付したバイク部品の製造・輸出委託が問題視されました。事件は、製品が完全に輸出目的であっても、中国国内での製造過程において商標が使用される点が、国内の商標権保護の観点から争点となった点に特徴があります。■事件の概要
被告会社である恒胜集団有限公司は、第三者であるミャンマーの美華社(MEI HUA COMPANY LIMITED)との間で、「HONDAKIT」という⽂字を付したバイクの組み⽴て部品を製造し、製造後にミャンマーに輸出する受託製造契約を締結しました。製品はミャンマー向けの輸出専用であり、中国国内での販売は想定されていません。2016 年の中頃に中国の税関はそのバイクの組み⽴て部品を発⾒し、日本の本田技研工業株式会社(本田)の登録商標「HONDA」と類似していることから、権利者の本田に通知し、本田は商標権侵害訴訟を提起しました。
ここで、商標の類似性と、製造・輸出過程における中国国内での商標「使用」の解釈が主要な論点として取り上げられました。■争点と裁判経緯
本件の争点は主に二点です。
第一は「HONDAKIT」と「HONDA」の類似性です。特に「HONDA」という部分が消費者に強い印象を与えるため、誤認混同の可能性が問題となりました。
第二は、OEM 製品が輸出専用であっても、中国国内で製造される過程で商標が使用されれば、国内法上の商標侵害が成⽴するかどうかという点です。
裁判は三段階で進⾏しました。まず、第一審の地⽅裁判所は、製品が OEM であっても中国国内で製造される段階で商標が用いられる点に着目し、「HONDAKIT」が本田の商標権を侵害すると判断しました。続く第二審の高等裁判所でも、第一審の判断が支持され、混同の恐れが認められました。最終的に、最高⼈⺠法院(2021 年)は「HONDAKIT」が「HONDA」と類似しており、たとえ輸出専用であっても中国国内での製造段階における商標使用は、中国商標法の適用対象であると確定、30 万元(約 480 万円)の損害賠償⾦の支払いを命じました。
■判決内容と今後の教訓
判決では、商標の類似性が認められ、OEM 製品であっても中国国内での製造工程での商標使用は、国内の商標法に抵触するとの⾒解が⽰されました。これにより、輸出専用といえども製造過程での「使用」が認定されれば、商標権侵害が成⽴するという判断が下されました。過去の判例(例︓2009 年「PRETUL 事件」)では、輸出専用 OEM 製品は「商標使用」に該当せず、侵害なしと判断されていました。 今回の判例は、OEM 契約における商標管理の重要性を強
調するとともに、従来の「輸出専用であれば侵害に当たらない」という解釈からの転換を⽰しています。現在は、中国国内の製造工程での商標使用を「商標法上の使用」と解釈。知的財産保護強化の政策や国際的な圧⼒が背景にあり、権利者保護が優先されるという流れがあります。
したがって、OEM 製品の製造を委託する際には、使用予定の商標が既存の登録商標と類似していないか事前に精査する必要があること、また、委託元および委託先双⽅がリスクを回避するために自社商標の中国国内での登録や、商標ライセンス契約の締結などの対策を講じるべきであることがわかります。
以上