手ブレ補正装置「ジンバル」、DJI が日本市場で覇権を握る
- カメラやスマートフォンなどの手ブレ補正装置であるジンバルは、そのほとんどが中国の深圳で作られていると聞きました。何が優れているのか、どうして売れているのかを教えてください。
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ジンバルとは、カメラを常に⽔平に保ち、手ブレを物理的に打ち消す回転制御装置(スタビライザー)です。とくに近年ジンバルは、3 軸ブラシレスモータ等で構成された“電動式スタビライザー”として進化しており、誰もがプロレベルの安定した映像を手軽に撮影できるデバイスとなっています。スマートフォン、アクションカメラ、ドローンなどあらゆる撮影デバイスに組み合わされ、YouTube やTikTok をはじめとする動画プラットフォームの爆発的拡大と共に普及しています。このジンバル市場における覇権を握るのが、中国・深圳発の企業群、特に DJIでです。2020 年代初頭の段階で、グローバル市場の 7 割以上を深圳系メーカーが支配しており、中でもDJI 単独で半数以上のシェアを獲得していると言われています。なぜこの市場が深圳に集中し、特にDJI が他を圧倒しているのか。その答えは、「ハードウェアのシリコンバレー」と呼ばれる深圳の産業構造と、DJI の技術的・戦略的優位性にあります。

DJI︓空間カメラ制御技術の巨人
DJI(大疆創新)はもともとドローンメーカーとして知られていますが、そのコア技術は「空間内のカメラ制御」です。⾶⾏中のドローンに搭載されたカメラをブレずに安定させるために開発された 3 軸ジンバル制御技術は、強風や振動の中でも滑らかな映像を撮影できるよう設計されています。この極めて⾼度な技術は、⼩型⾼トルクモーター、⾼応答のフィードバックループ制御、軽量なメカニズムによって支えられており、DJI は⻑年にわたる研究開発投資により、他社が模倣困難なレベルまで洗練させてきたと言われています。
そして特筆すべきは、この空中用ジンバル技術をそのまま地上に“転用”するという逆転の発想です。2015 年に DJI が発表した「Osmo」は、ドローンのジンバルユニットにグリップを付けただけのような構造で、明確に「ドローン技術の地上展開」を志向していました。その後継機である「Osmo Pocket」シリーズは、2023 年モデルの「Pocket 3」で市場を席巻。1 インチセンサー搭載、ポケットサイズ、4K/120fps 対応という驚異的なスペックを実現し、わずか数か⽉で⽇本市場のビデオカメラ部門販売台数トップに⽴ちました。従来のソニーやパナソニックのハンディカムを圧倒的に引き離し、「ジンバルカメラ」という新カテゴリを確⽴したのです。技術の多重利⽤と価格優位
DJI の競争優位性は、単に性能が⾼いだけでなく「既存技術の多重利用」によるコスト優位にもあります。ドローンの開発で培われたジンバル技術はすでに償却済みであり、それを地上向け製品に転用することで、開発費を抑えつつ⾼機能なジンバル製品を迅速に市場投⼊できる。このスピード感とコストパフォーマンスが、ゼロから開発を⾏う⽇本や欧⽶の家電メーカーに対し、大きなリードをもたらしています。
ソフトウェアとの融合︓参入障壁の高さ
さらにDJI の強さは、ハードウェアだけでなくAI を活用したソフトウェア群との⾼度な統合にあります。画像認識AI による被写体追尾機能「ActiveTrack」。ユーザーが画面上で人物や対象をタップするだけで、カメラが自動的に被写体を追い続けるこの機能は、プロでなければできなかった複雑なカメラワークを誰にでも再現可能にしました。
このように、モーター制御、画像認識、アプリUI といった異なる技術領域を統合した“エコシステム”を構築できる⼒こそが、DJI が単なるジンバルメーカーに留まらない理由です。ユーザーにとっては「失敗のない撮影体験」が保証され、他社製品では得られない信頼性がある。これが、価格だけでなくブランド⼒においてもDJI を選ぶ動機となっています。
市場を壊して創る︓破壊的イノベーション
DJI の製品は既存市場を食うのではなく、新しい市場を創出している…。従来のビデオカメラは、ズームレバーや液晶モニター、内蔵ストレージといった要素が評価基準だったが、DJI のジンバルカメラは「映像の滑らかさ」「持ち運びの容易さ」「スマホとの連携性」といった新たな価値基準を提⽰しました。これにより、消費者の購買⾏動そのものが変わり、既存市場の価値観を覆すことに成功したのです。
このように、ジンバル市場が深圳企業によって支配されている構造の背後には、ドローン開発を通じて確⽴された圧倒的な技術資産、それを効率的に活用する戦略、さらにハードとソフトを融合させた独自のエコシステム構築⼒があります。そしてそれらを最も洗練された形で体現しているのが、DJI です。以上


