中国の労働法規と身分証明書等の保管について
- 当社の中国生産子会社で、雇用条件として労働者に対して、身分証明書、パスポート、労働許可証等、就業に必要な書類の原本を保管してよいのでしょうか︖中国の法律は、これらの書類に対して、どのように規定しているのか教えてください
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中国において雇用主が従業員の身分証明書などの重要書類の原本を一方的に保管することは、法律で明確に禁止
されています。中国の労働法規では、企業のコンプライアンス遵守の観点から、この「原本の保管(扣押︓こうあつ)」につ
いて非常に厳しい規定が設けられています。主な法規制と実務上のポイントは以下の通りです。- 法律による明確な禁止
中国の《中華⼈⺠共和国労働契約法》第九条において、使用者が労働者を採用する際、「労働者の住⺠身分証やその他の書類を保留してはならず、また担保などの名目で⾦銭や物品を受け取ってはならない」と明確に規定されています。 また、《中華⼈⺠共和国住⺠身分証法》第⼗五条においても、いかなる組織または個⼈も住⺠身分証を保留してはならないとされており、本⼈が所持することが原則です。 - 違反時の罰則
もし企業がこれらの規定に違反して原本を保管した場合、労働⾏政部門(労働監督当局)より是正命令が出されます。さらに《労働契約法》第八⼗四条に基づき、労働者一⼈当たり500元以上2000元以下の罰⾦が科される規定があり、労働者に損害が生じた場合は賠償責任も負うことになります。 - 実務上の対応(コピーの保管)
法律が禁止しているのはあくまで「原本の没収・保管」です。一方で、企業が雇用管理を⾏う上で、本⼈確認や⾏政手続き(社会保険、税務申告、労働許可証の申請など)のために、身分証明書やパスポートの「コピー」を取得・保管することは合法であり、一般的な実務慣⾏として認められています。 - 個人情報の取り扱い
コピーを保管する場合であっても、2021年に施⾏された《個⼈情報保護法》に⼗分配慮する必要があります。収集目的を明確にして本⼈の同意を得ることや、情報の漏洩を防ぐための安全管理措置を講じることが義務付けられています。
就業に必要な書類であっても、原本は常に労働者本⼈が所持しなければなりません。企業は必要に応じて原本を確認(閲覧)し、コピーを保存するという運用を徹底する必要があります。もし現在、原本を預かっている実態がある場合は、速やかに返却し、法令に準拠した管理体制へ是正する必要があります。
※主な身分証明書と労働関係書類
中国の生産拠点で従業員を雇用する際に関わる主な書類と、その保管の考え方は以下の通り。書類の種類 日本語訳 原本保管 コピー保管 主な⽤途と理由 居⺠身份证 住⺠身分証 不可 可 本⼈確認、労働契約締結、社会保険・住房公積⾦手続き、税務申告などあらゆる法定手続きに必要。 护照 パスポート 不可 可 外国⼈や海外出張者の場合は特に、ビザ申請や出⼊国管理手続きに必要。 劳动合同 労働契約書 - - 双方が各1部ずつ原本を保持するのが法定の原則。会社は少なくとも契約期間中は原本を保管する。 劳动用工备案名册 労働者雇用登録名簿 - - 労働部門への提出書類。会社はコピーを保管。 社会保险登记証/証号 社会保険登録証/番号 - 可 社会保険の登録証明。コピーまたは番号を記録して保管。 住房公积⾦账号 住房公積⾦口座番号 - 可 住房公積⾦の口座番号を記録して保管。 职业资格証书/技能証书 職業資格証書/技能証書 - 可 業務上必要な資格証明。原本は本⼈が保持し、会社は写しを保管することが多い。 学历証明 学歴証明 不可 可 採用時の学歴確認。原本は本⼈に返却し、写しを保管。 以上
- 法律による明確な禁止

