手ブレ補正装置「ジンバル」、DJIが日本市場で覇権を握る(その2)

カメラやスマートフォンなどの手ブレ補正装置であるジンバルは、そのほとんどが中国の深圳で作られていると聞きました。何が優れているのか、どうして売れているのかを教えてください。

 近年、ジンバル市場では中国企業、特に深圳を拠点とするメーカーが圧倒的な存在感を示しています。本稿では、その競争⼒の源泉を解説しますが、その前に、筆者も原稿を書いていてどんなものか⾒てみたくなったので、amazonで購入してみました。
 今回購入したのは、「hohem XE スマホジンバル 2023」(Hohem製)です。業界最大手のDJI製品が2万円台からであるのに対し、本機は約6,500 円と初⼼者向けの価格帯です。動画撮影の経験がほとんどない⽴場から、「買って終わり」にならない製品を試す目的での購入でした。


 実際に使用して最も驚かされたのは、ジェスチャー操作によるAI追跡機能です。ピースサインや手のひらといった簡単な動作だけで、顔認識・追跡開始・停⽌が直感的に⾏われ、被写体が動くとジンバルが⾃然に追従します。さらに、アプリ画面上で対象物を囲むだけで、人物以外のペットや物体も追跡可能です。
 この価格帯で、ここまで「考えなくても使える」完成度に達している点は率直に驚きであり、「よく売れる理由が分かる」と感じました。

 Hohemは2014年に深圳で設⽴されたジンバル専業メーカーです。ドローン技術を応用した手ブレ補正技術やAI⾃動追跡機能に強みを持ち、現在は世界100カ国以上で製品を展開しています。
 ジンバル業界では、最大手のDJI、第2位のInsta360(360度カメラで有名)に続き、Hohemはスマートフォン用ジンバル分野で世界第3〜4位に位置する実⼒派メーカーとされています。最大の特徴は、最新機能を搭載しながら、大手メーカーの半額近い価格で提供する「圧倒的なコストパフォーマンス」です。特に「安くて高性能」を求める初⼼者層から強い支持を集めていることで知られています。

 さて、本論に戻ります。深圳を中⼼とする中国企業がジンバル市場で優位に⽴つ背景には、主に以下の4つの構造的要因があります。
 第⼀に、産業クラスターが⽣む圧倒的なスピードです。深圳には、開発・設計・部品調達・量産に⾄るまでの機能が極めて狭い地域に集積しています。アイデアは即座に試作され、数⽇単位で改良と量産が進む。この開発スピードが、他国メーカーとの決定的な差を⽣んでいます。また、DJIを源流とする人材や技術がスピンアウトし、新たな企業が次々と誕⽣する好循環も形成されています。
 第⼆に、ドローン技術の⽔平展開です。ジンバル技術の中核は、ドローン開発で培われた高精度な3軸制御技術にあります。強風や振動下でも安定した映像を実現するための技術が、手持ちジンバルやスマートフォン向けに転用されました。すでにドローン事業で投資回収が進んだ技術を再利用できるため、高性能と低価格を同時に実現しています。
 第三に、ニーズの再定義による市場転換です。従来、⽇本メーカーは「高倍率ズーム」や「⻑時間撮影」といった既存需要を重視してきました。⼀方、深圳企業はSNSやVlog世代の「⾃撮り」「機動⼒」「スマートフォン連携」といった新しい利用シーンに焦点を当て、市場そのものを再定義しました。その結果、ジンバル⼀体型カメラなどの新カテゴリーが⽣まれ、従来のビデオカメラ市場を実質的に代替する存在へと進化しています。
 第四に、ハードとソフトを融合したUX設計です。中国企業の本当の強みは、単なる製造⼒ではありません。精密なモーター制御、画像認識AI、直感的なアプリUIを⼀体化し、誰でも使えるユーザー体験として設計しています。このエコシステムは模倣が難しく、後発企業にとって高い参入障壁となっています。

 このように、深圳エコシステムの本質は、 「世界最速の試作・量産体制」×「ドローン由来の高度な制御技術」×「SNS時代のニーズを的確に捉えた製品設計」 という、極めて合理的なイノベーションモデルにあります。
 消費者が⽣産国を問わず中国製ジンバルを選ぶ理由は、単なる価格の安さではなく、「代替できない実利」がそこにあるためです。この構造を理解することは、中国発ハードウェアが今後どの分野で台頭するのかを読み解く重要なヒントになると思います。

  以上