台湾・⽶国・中国の半導体業界と「台湾⼈脈」︓その隠れた連結性の解明(その2)

台湾の半導体企業、米国テック業界、そして中国の半導体業界は、「台湾人脈」を通じて繋がっているとききました。米中対⽴、台中対⽴の中、どのような相関関係があるのでしょうか。


3.ファブレス・ファウンドリ分業体制︓台湾の製造能⼒が米国の技術⾰新を⽀える仕組み

 現代の半導体産業の構造を決定づけたのは、TSMCの創業者・張忠謀(モリス・チャン)が確⽴した「ファブレス(設計専門)」と「ファウンドリ(製造受託)」の垂直分業モデルです。この革新的なビジネスモデルが、米国の技術革新を支え、台湾の製造能⼒を世界の半導体サプライチェーンの核へと押し上げました。
 新しいテクノロジーの波(PC、スマートフォン、AI)が到来するたびに、最終的なサービスを提供する企業(Microsoft、Apple など)よりも、その基盤となる半導体を供給する企業(Intel、Broadcom、NVIDIAなど)の株価が、桁違いの成⻑を遂げる傾向があります。これは、サービス市場には多数の企業が参⼊し競争が激化する⼀⽅、AI 開発に必要な高性能GPUのように、最先端の半導体を供給できる企業はほぼ⼀社(NVIDIA)に限定されるという市場構造に起因します。

 この構造を最大限に活用しているのが、米国のトップファブレス企業です。
 巨額投資の回避︓NVIDIA、AMD、Broadcomといった企業は、⼀棟あたり200億ドル(約3兆円)にも上る半導体製造工場を自社で建設する必要がありません。製造をTSMCに委託することで、その莫大な設備投資を回避し、リソースを最も得意とする研究開発と設計に集中させることができます。

 技術⾰新の加速︓この分業体制により、ファブレス企業は設計から製造までを⼀貫して⾏うIDM(垂直統合型デバイスメーカー)よりも、はるかに短い開発サイクルで革新的な製品を市場に投⼊できます。実際に、ファブレス企業に転身したAMDは、TSMCの最先端製造プロセスを活用することで、⻑年CPU市場を支配してきたIDMの巨人・インテルのシェアを大きく奪い取りました。70%程度あったインテルのシェア率は60%近くまでダウンし、対するAMDのシェア率は20%程から30%以上まで上昇したのです。

 この「米国の設計能⼒」と「台湾の製造能⼒」が⼀体となったエコシステムこそが、世界最先端の半導体を⽣み出す強⼒なエンジンとなっています。TSMCという製造基盤があるからこそ、米国のファブレス企業はリスクを抑えながら大胆な技術革新に挑戦できる。そして、前回解説した通り、AMDのCEOは台湾出身のリサ・スーであり、彼⼥が完全ファブレス化してTSMC に一本化を決断したのは、人的関係の背景を感じます。

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