大阪万博で運⾏していた中国製EVバスが不具合で摘発︖

⼤阪・関⻄万博の中国製EVバスが国⼟交通省の検査で摘発されたと聞きました。具体的な状況を教えてください。


 ⼤阪・関⻄万博で運⾏していたEVバスは、北九州市のEVモーターズ・ジャパン(EVMJ)が供給元となり、「日本製EV」名義で申請・補助⾦交付を受けていましたが、実際には中国メーカー製でした。この構造的な偽装は、国⼟交通省による⽴⼊検査という異例の事態を招きました。
 EVMJは「国内生産」を標榜しながらも、実際の製造は福建威馳騰汽⾞(WISDOM Motor)・南京恒天嶺鋭汽⾞有限公司(YANCHENG)・愛中和汽⾞(VAMO)の3社に全⾯委託。中国製⾞両を日本で最終架装(料⾦箱や⾏先表⽰機の取付等)したにすぎないものを「国産」として登録していました。

1.国⼟交通省による異例の⽴⼊検査

  • 2025年9月3日︓ 全国で不具合報告が相次いだため、国⼟交通省がEVMJに全⾞両の総点検指⽰を発出。
  • 総点検結果︓ 運⾏中の317台のうち113台(約36%)に、ブレーキ損傷や制御系トラブルなどの重⼤な欠陥が判明。
  • 9月下旬︓ 国交省は道路運送⾞両法に基づき、北九州市のEVMJ本社へ⽴⼊検査を実施。EVMJの自己申告内容の信頼性を欠くと判断し、品質管理体制を直接検証する措置に踏み切りました。

2.全国で多発した運⾏トラブル

  • 大阪メトロ︓ 回送中のバスが中央分離帯に乗り上げ。運転手は「ハンドルが利かなかった」と証言し、操舵系統の欠陥が疑われます。
  • 福岡・筑後市スクールバス︓ 国内初のEVスクールバス4台導⼊後、信号待ちで動作不能・ハンドル応答遅延などが頻発し、運⾏停⽌に。
  • 阪急バス︓ 万博シャトルで⾛⾏中に警告灯が点灯し、安全のため全便が代替運⾏へ切り替えられました。

3.万博向けEVバスの実態と構造
 不具合は、搭載されていた「中馳(Zhongchi)製インバータ」が中心とされ、EVMJが「自社独自技術」として宣伝していた装置の信頼性が問われています。

4.BYDが採用されなかった理由
 BYD(比亜迪)は日本で約500台の納⾞実績がありましたが、万博案件では意図的に排除されました。

  • 当初︓ 2022年時点で⼤阪シティバスはBYD K8を試験導⼊し、万博向け⼤型⾞両として内定していました。
  • 転換︓ 上層部から「EVMJ製も検討せよ」と指⽰が⼊り、最終的にBYD案は「中国製であるため採⽤⾒送り」とされました。
  • 実態︓ EVMJ⾞も同じく中国製でした。EVMJは、BYDのような正規OEMではなく、「並⾏輸⼊+ファブレス」という手法で登録区分を国内⾞両と⾒せかける構造をとっていました。

 BYDは、型式認証を回避し品質保証責任の所在が曖昧になるEVMJのようなスキーム(並⾏輸⼊)への参加を拒否したとみられ、EVMJのモデルとは根本的に相容れませんでした。

5.EVMJのビジネスモデルの問題点
 EVMJの戦略的失敗は、このビジネスモデル比較で明確です。EVMJは「品質」よりも「自社ブランドの設計主導権」を優先し、その結果、安全保障の根幹である品質保証体制が崩壊したとみられます。

比較項目日野×BYDモデル(正規OEM)EVMJモデル(ファブレス・並⾏輸⼊)
品質保証責任明確(BYD・日野で分担)不明確(輸⼊者責任が曖昧)
部品調達実績あるサプライヤー信頼性不明な小規模企業群
ブランド戦略日野ブランド下で販売自社ブランドを優先
法規制対応型式指定あり・リコール対象型式指定回避・制度外

 関⻄万博のEVバス事案は、「日本製EV」ブランドの名のもとで中国製⾞両が流通した制度的盲点を⽰しました。EVMJが「並⾏輸⼊・ファブレス」モデルを⽤い、⾏政・報道・ユーザーが一様に「国産」と信じた構造が最⼤の問題であったと指摘されています。

<参考出所>

  • 「低品質・高価格の万博EVバス、1社独占で150台受注。なぜBYDは“蚊帳の外”だったのか︖」
    URL︓https://36kr.jp/376370/
  • 「⼤阪万博を⾛る『中国製EVバス』でトラブル続出…書類だけのシンプル審査で『補助⾦天国』というEVバス業界の闇」 URL︓https://president.jp/articles/-/102392?page=1

  以上