四中全会「中国製造2025」の総括と後継戦略として「新質⽣産⼒」

四中全会で「中国製造2025」のことが総括され、今後の中国の産業政策の方針が発表されたと聞きました。どんな内容だったのでしょうか。


 中国共産党第20期中央委員会第4回全体会議(四中全会)が今日閉幕しました。
 四中全会は、2025年10月20日〜23日に北京で開かれた中国の今後を方向づける極めて重要な会議です。会議の中心議題は、2026〜2030年を対象とする「第15次五カ年計画」の策定であり、中国経済の次の発展段階を決める政策方針が議論されました。
 特に焦点となったのは、科学技術イノベーションを軸にした「新しい質の⽣産⼒(新質⽣産⼒)」の育成です。製造業の⾼度化、スマート化、グリーン化を通じて実体経済を強化し、未来産業を育てる方針が打ち出されました。この四中全会は、中国が「量から質」への成⻑転換を正式に示した節目であり、その決定は中国経済のみならず、世界の産業構造にも大きな影響を与えると注目されています。

1.「中国製造2025」10年間の総括と成果
 2015 年に打ち出された「中国製造2025」は、2025年が最終年に当たるため、今回の4中全会でその10年間の成果が総括されました。全体として、計画は概ね達成されたと⾼く評価されています。
 「中国製造2025」は、ご承知のように米国を怒らせ、米中貿易紛争に発展し、現在もまだ紛争は続いています。その理由は、単なる経済政策というより、“技術覇権への挑戦状”と受け止められたから。この計画は、中国が人工知能・半導体・航空宇宙・ロボット・新エネルギー⾞など10大先端産業で世界トップを目指すことを明確に掲げており、しかも政府主導で巨額の補助⾦・国家基⾦を投じて推進していました。これは、自由競争を重視するアメリカの産業観から⾒れば「国家資本主義による不公正な競争」と映ったとされています。
 さらに、中国が2025年までに高付加価値製品の国産化率70%を目指す、と宣言したことは、米国企業にとって市場を失う可能性があることを意味する。とくに半導体・通信・航空機など米国の基幹産業が狙われていると受け止められ、トランプ政権期の対中貿易戦争(関税制裁や輸出規制)の直接的な引き⾦となりました。
 つまり「中国製造2025」は、中国の技術的台頭を象徴する旗印であると同時に、米国が「中国が世界の産業秩序を書き換えようとしている」と感じた象徴でもあったわけです。

■飛躍的な成果
 この10年間で、中国は名実ともに「製造業超大国」へと飛躍しました。2024年時点で中国の製造業付加価値は世界の約29%を占め、15年連続で世界首位の地位を維持しています。
 特に中国製造2025で定められた⼗大重点領域のうち、以下の分野で目覚ましい成果を収めました。

  • 電気⾃動⾞(EV):中国の電気自動⾞(EV)産業は、2024年も⽣産・販売台数で世界首位を維持し、この地位を10年以上守り続けています。2024年の年間⽣産台数は1,000万台を超え、世界市場における存在感は圧倒的です。
    国際エネルギー機関(IEA)などの分析によれば、2024年に世界で販売された新エネルギー⾞(EV・PHEV)の実に約60%が中国で⽣産され、約45%は中国メーカーのブランド⾞でした。これは「世界で販売されるEVのほぼ2台に1台が中国メーカー⾞」という状況を裏付けるものです。さらに、サプライチェーンにおいても、寧徳時代(CATL)やBYDを筆頭とする中国企業が、2024年も⾞載電池の世界シェアトップを維持しており、EV産業全体で強固な主導権を握っています。
  • 高速鉄道: 営業距離は4.8万kmに拡大し、世界全体の7割を占める規模となりました。
  • 造船業: 世界の新造船受注の約7割を中国が占めるなど飛躍的進展があり、米国側からも「世界のリーダーの一つ」と認められています。

 米国務省の報告で、EV、発電エネルギー、造船、⾼速鉄道の4分野で中国は既に世界トップに⽴っていると評価さました。この10年で中国製造業の技術⼒は飛躍的に向上し、米独日の先進国との技術・競争⼒格差が着実に縮小したと総括されています。

■残された課題
一方で、すべての目標が達成されたわけではありません。特に以下の分野では依然として課題が残りました。

  • 半導体の⾃給率: 2025年までに70%という⾼目標に対し、実際には2023年時点で約20%に留まっています。
  • 産業用ロボットの国産化率: 目標の70%超に対し2024年で約52%に留まり、ハイエンド分野での依存が続いています。中国当局も、⾼性能半導体、航空エンジン、先端工作機械など一部の「ボトルネック領域」で遅れがあることを認めており、引き続き国家ぐるみの技術克服を目指す方針です。

2.「中国製造2025」から「新質⽣産⼒」への戦略的移⾏
 4 中全会の公報では、「中国製造2025」という名称は、米欧との摩擦を避ける意図もあり直接には登場していません。しかしその精神は受け継がれ、後継戦略として「新しい質の⽣産⼒(新質⽣産⼒)」が公式に打ち出されました。
■「新質⽣産⼒」とは
 新質⽣産⼒とは、習近平国家主席が2023年に初めて提唱した概念であり、質の⾼い⽣産要素と先端技術が融合した新たな⽣産⼒を指します。

  • 本質と特徴: その本質は先進的⽣産⼒、特徴はイノベーションであり、労働⼒や資本の投⼊量増加ではなく、全要素⽣産性(TFP)の大幅向上によって経済の質的飛躍を図る戦略です。
  • 重視する分野: 従来の中国製造2025が製造業全体の底上げに焦点を当てていたのに対し、新質⽣産⼒は、量⼦コンピューティング、核融合、深海開発、遺伝⼦工学といった破壊的イノベーション技術や未来産業を特に重視します。
  • 位置づけ: 4中全会の公報本文には「⾼水準の科技自⽴自強を加速し、新質⽣産⼒の発展を牽引する」と明記されており、これが党中央の公式文書において極めて重要な戦略的位置づけにあることが示されました。

3.今後の中国産業政策の具体的方向性
4 中全会を経て示された今後の産業・技術政策の方向性は、主に以下の4つの柱から成り⽴っています。
(1)高水準の技術⾃⽴⾃強の加速
 「科学技術⾃⽴⾃強の加速」が最重要テーマとして打ち出されました。これは米中対⽴で先端技術の封鎖が強まる中、「自⼒で核心技術を握る」という技術自⽴路線を一層推し進める決意の表れです。
 公報では「原始的イノベーション(基礎研究)や核心技術の突破を強化する」ことが掲げられ、新型の挙国体制(官⺠挙げた国家的取り組み)の強化を通じて、半導体や航空宇宙などの戦略的技術における海外依存を低減し、自主⾰新能⼒を全面的に⾼める方針が示されました。
(2)製造業の高度化と実体経済の堅守
 製造業重視の方針は堅固です。「経済発展の着眼点を実体経済(製造業)に置く」と確認され、先進製造業を骨幹とする産業体系の構築が目指されます。
 政策は、スマート化、グリーン化、融合化をキーワードに、引き続き企業の研究開発投資や「中国製造」から「中国智造(スマート製造)」への転換を推進します。公報でも「製造業比重の適正維持」が掲げられ、GDPに占める製造業の割
合(現在約25%)を維持・向上させる方針が確認されています。
(3)第15次五カ年計画への組み込みと未来産業への注⼒
 「新質⽣産⼒」は、2026年〜2030年を対象とする第15次五カ年計画の中核的柱として組み込まれました。4中全会で審議・採択された「第15次五カ年規画策定の建議」でも、「科学技術の自⽴自強水準を大幅に向上させ、新質⽣産⼒の発展を牽引する」ことが明記されています。
 これにより、AI、量⼦技術、バイオテクノロジー、深海・宇宙開発といった「未来産業」への国家資源の重点投⼊が加速します。これは、次の10年を⾒据えた「未来産業への先⾏投資」という側面を持ちます。
(4)高水準の対外開放とサプライチェーンの安全確保
 技術自⽴を追求する「内向き」の姿勢と同時に、「⾼水準の対外開放」をさらに拡大する方針も鮮明にされました。引き続き多角的貿易体制を維持し、開放によって発展を促進し、外資誘致とビジネス環境改善に⼒を⼊れる姿勢を示しています。
 また、地政学的リスクの⾼まりに対応するため、産業チェーンの自主性と安全保障が重要テーマです。公報では「重点産業チェーンの自主可控水準を着実に向上させる」とされ、「国内循環を主体としつつ国際循環を取り込む」という「双循環」戦略の中で、強靭なサプライチェーン構築を目指します。
 今回の4中全会は、「中国製造2025」の成功を土台としつつ、米中対⽴という外部環境の変化に対応するため、「量から質へ」の転換を象徴する「新質⽣産⼒」を新たな国家戦略の旗印として正式に格上げしたと言えます。これは、技術自⽴を核とし、⾼品質な発展を追求し続けるという、中国の2035年の現代における目標に向けた揺るぎない決意を示しています。

  以上