中国商標における「出願人名の中国語表記」について

当社は、英語表記の社名であり、これまでは、英語表記のまま中国で商標を登録してきました。しかし今回、新規の商標を作成して出願しようとしたら、出願人名は中国語(漢字)表記が必要だといわれました。当社は公式の中国語社名がないため、これから検討しなくてはなりません。最近、英語表記社名での出願が不可能になった背景と対応策を教えてください。


 近年、中国商標の出願・審査運⽤が厳格化されています。とくに出願人名(会社名)の中国語(漢字)表記は、事実上“必須”とされる流れに変わってきました。かつてはアルファベット表記の社名でも問題なく出願・登録できましたが、現在は、審査当局(中国国家知識産権局)が「書類・情報の正確性と真正性」を⼀層重視しており、英⽂字部分ついて中国語訳や証明書の提出を求める補正通知が増えています。
 商標法や関連規則でも、「出願書類・資料は真実、正確、完全でなければならない」「出願人名は提出証明書類と⼀致していなければならない」と明記されており、⾏政上も“出願人名を中国語(漢字)で特定すること”が求められています。加えて、中国の⾏政⼿続全般で「外国語資料は中国語訳の添付が必須…」「訳⽂がなければ受理しない…」とされており、商標出願も例外ではありません。
 このため、今後は中国語(漢字)社名を⽤意したうえで出願⼿続きを進めることが、実務的には最も確実かつリスクが少ない方法となります。

■中国語社名の作成方法とポイント
 中国語社名を新たに作る場合、主に次の3つの方法があります。
 ●音訳(発音重視)
 会社名やブランド名の音を中国語で近い漢字に置き換える方法。
 例︓Coca-Cola → 可口可楽
 ●意訳(意味重視)
 英語名や日本語名の意味を中国語に翻訳する方法。
 例︓Apple → 苹果(リンゴ)
 ●音訳+意訳のミックス
 発音も雰囲気も良いバランスを取る。
 例︓Amazon → 亚马逊(アマゾン社)

 中国語社名を検討する際、単に商標出願人名として利⽤するだけであれば、商標の先⾏類似調査は必須ではありません。この場合、その社名が会社の登記名やブランド名として使われる予定がなければ、既存の商標登録状況は直接影響しません。
 ただし、今後その中国語社名を商標やブランド名としても使⽤する予定がある場合や、中国市場での認知度向上を図る場合には、事前に先⾏類似商標の有無を調査しておくに越したことはありません。すでに第三者に登録されていれば、商標としての使⽤やブランド展開に支障をきたす可能性があるため、社名の決定段階で商標調査も合わせて検討することが、リスク回避と⼀貫性確保の観点から望まれます。

3.日本企業が注意すべき追加ポイント
 ●カタカナ・ひらがな商標は中国では図形扱い
 カタカナやひらがなでの出願は「図形商標」として審査されるため、音や意味が重視されず、権利範囲が限定されることが多い。
 ●漢字とアルファベットでは発音が異なる
 例えば「鈴⽊」は日本語で“suzuki”だが、中国語では“ling mu”と読むため、漢字のみで登録してもアルファベット表記まで権利が及ばない場合がある。漢字表記とアルファベット表記の両方で商標出願するか、⼆段書きで出願する。
 ●中国語社名自体も将来の商標候補となる
 社名が中国で知名度を得てから出願しようとすると、すでに第三者に登録されている(冒認出願されている)事例が多発している。商標登録も同時並⾏で進めるのがリスク低減の鉄則である。
 ●信頼できる商標代理人の選定
 中国では商標代理人と特許代理人の制度が分かれている。日本語や日本事情に明るく、中国での実務経験が豊富な代理人を選ぶことで、権利範囲のミスや翻訳誤りのリスクが低減できる。

4.冒認出願(抜け駆け商標)対策と市場事情
 中国市場では、第三者による悪意ある商標の無断出願(冒認出願)が依然として大きなリスクである。実際に日本や欧⽶の著名ブランドが中国で冒認出願・登録され、多額の損害や交渉コストを被った例も少なくない(例︓無印良品、New Balance等)。
 この対策として、2019年の商標法改正で「使⽤を目的としない悪意のある商標登録出願は拒絶される」ことが明⽂化されたが、依然として実務では未然に防ぐことが重要である。
中国語での会社名・商品名を⽤意し、先に出願しておくことは、冒認出願を防止し、市場で自社ブランドの信⽤を築くうえでも不可⽋である。

  
以上