現地法人の「休眠」から正規清算(注销)へ移⾏する実務⼿順と注意点
- 前回、現地法⼈を放置(夜逃げ)することの法的な危険性は理解しました。しかし、資⾦繰りや⼈員整理の⾯ですぐに完全な清算手続き(注销)に⼊る余⼒もありません。そこで、2022年に導⼊された「休眠(歇業)制度」を利⽤し、⼀旦会社を塩漬けにしてコストを下げてから、準備が整い次第、正規の清算手続きへ移⾏したいと考えています。そのための手順と、実⾏上の注意点を教えてください。
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無理に清算手続きを急いだ結果、資⾦繰りの悪化や労働争議を招くと、現地法⼈のみならず親会社・駐在員双方の法務・税務リスクが短期間に顕在化します。これを回避するためには、合法的な「休眠(歇業)制度」を活⽤して事業活動を縮小し、固定費を最小化したうえで、清算に必要な資⾦・体制・資料を段階的に整えていく進め方が有効です。
休眠は撤退を先送りするための便法ではなく、正規の清算(注销)へ安全に移⾏するための準備期間を制度的に確保する手段です。従業員対応と税務対応が同時並⾏で発生しないよう論点を切り分け、優先順位を付けて法的責任を⼀つずつ確実に整理することで、撤退プロセス全体のリスクとコストを平準化できます。実務手順は概ね4フェーズで整理できます。
Phase1(休眠申請前の準備)
休眠は「実態として事業が停止または大幅に縮小している」ことが前提となるため、申請前に主要論点を整理します。
第⼀に、従業員との労働関係を解消または整理します(解雇・合意退職等)。補償条件、支払時期、合意書⾯、引継ぎ範囲を明確化し、交渉経緯を含めて記録を残します。ここで紛争化すると休眠申請自体が難航し、清算も⻑期化しやすくなります。
第二に、賃料負担の大きいオフィスは縮小・解約を検討しつつ、登記住所(送達先)と連絡体制は維持します。物理オフィスがなくても送達可能な住所があれば登記維持が可能とされる運⽤があるため、バーチャルオフィスや信頼できる法律事務所・会計事務所の住所への移転も選択肢です。
第三に、利益剰余⾦等の資⾦が残る場合は、可能な範囲で配当等の正規手続により事前の資⾦回収を検討します。休眠中や清算段階では監査・税務手続が増え、資⾦移動に時間を要したり、手続未整備で資⾦が滞留するリスクが高まるためです。Phase2(休眠の申請)
管轄の市場監督管理局に届出・備案を⾏います。理由は自然災害・公衆衛生事案・その他の経営困難等が想定され、実務上は感染症影響、サプライチェーンの寸断、需要減退、事業環境変化などを整理し、説明可能な形に整えます。指定書式(市場主体歇業備案申請書、歇業備案承諾書等)を提出し、休眠期間は最⻑3年の範囲で、撤退計画(資⾦確保・体制整備・税務整理の⾒通し)に合わせて設定します。並⾏して、親会社側の稟議・責任分担(現地代理⼈、会計事務所、弁護⼠の役割)も明確化します。Phase3(休眠期間中の維持管理)
休眠が認められても法⼈義務が完全に消滅するわけではないため、最低限のコンプライアンスを継続します。具体的に
は、取引がなくても増値税・企業所得税等の申告(いわゆるゼロ申告を含む)が必要となる場合があり、未申告が続くと
「非正常」扱いとなって将来の清算時に追徴・加算⾦等の負担が増える可能性があります。併せて年次報告(⼯商公示)を期限内に⾏い、当局照会に即応できる現地代理体制を確保します。連絡不通は不利益処分や手続遅延につながり得るため、連絡先の更新と期限管理が重要です。
Phase4(休眠終了から正規清算への移⾏)
休眠満了前、または資⾦・体制の目途が⽴った段階で休眠を終了し、解散決議、清算組(清算委員会)の設置・登記を経て、税務登記抹消、税関・外貨・銀⾏⼝座等の整理を進めます。特に税務抹消では過去の申告・納税(休眠期間を含む)の整合性が確認され、Phase3の運⽤が成否を左右します。最終的に税⾦・賃⾦・債務の精算を完了し、登記抹消(注销完了)をもって撤退が完了します。
総じて、休眠の効果は「休眠中に何もしないこと」ではなく、「清算に向けた準備を静かな環境で積み上げること」にあります。労務・税務・登記の順に論点を分解し、書類・証憑の整合性を担保しながら進めることで、親会社の説明責任(社内監査・取締役会等)にも耐え得る撤退スキームとなります。
なお、地域運⽤や業種(許認可、税関登録の有無)により要求資料や手順が変わる場合があるため、事前確認を前提に計画を策定します。
また、休眠期間(最⻑3年)を超える前提の先送りはできないため、逆算で清算準備のマイルストーン(資⾦確保、申告完了、⼝座整理等)を設定し、定期的に進捗をレビューする運⽤が重要です。不備を残すと、最終局⾯で追加対応が発生し、結果的に総コストが増加する点に留意します。以上


