「中国製造2.0」を体現する深圳――構造転換が⽣んだ成⻑と次世代モノづくり

中国経済が全体的に低調な中で、深圳は依然として活⼒があると⾔われています。多くの有⼒企業が集積していることは承知していますが、深圳を形容する⾔葉として「中国製造2.0」という表現を耳にしました。他の地域と比べて、深圳の強みや特徴はどのような点にあるのでしょうか。


 中国経済全体に停滞感が漂う中で、深圳は例外的な活⼒を⽰しています。その原動⼒は、かつて「世界の⼯場」と呼ばれた製造都市が、技術革新とグローバル化を融合させた「中国製造2.0」へと進化したことにあります。「中国製造2.0」は「かつての低賃⾦・⼤量⽣産型モデル」から「技術革新・スマート製造・グローバル展開を統合する新型モデル」への転換を指す比喩的・説明的な表現として使われています。
 2024 年第3四半期、深圳の輸出⼊総額は前年同期比で20.9%増と、中国主要都市の中でも突出した成⻑を遂げました。輸出⼊に強い上海が0.03%増、蘇州が7.9%増にとどまるなか、その勢いは際⽴っています。
 この成⻑の象徴が、ドローン世界最⼤手のDJI(⼤疆創新)やEV⼤手BYD(比亜迪)です。DJIは高品質かつ高付加価値の製品を次々と生み出し、「安かろう悪かろう」とされた中国製品のイメージを一新しました。この「DJI効果」は深圳全体に波及し、モバイルバッテリーのAnker(安克創新)、3DプリンターのBambu Lab(拓⽵科技)、ポータブル電源のEcoFlow(正浩創新)など、新世代のハードウェア企業が続々と誕生しています。これらの創業者の多くはDJI出⾝で、南⼭区を中⼼に起業し、ユニコーン企業へと成⻑しています。

 深圳の強みは、ハードウェア製造を支える強靭なサプライチェーンにもあります。
 北部から隣接する東莞一帯には、ファーウェイやフォックスコンなど、スマートフォン産業を支える企業群が集積。激しい競争の中で、デュアルバンドチップやNPUといった高度部品が安価に調達できる体制が整いました。これにより、ロボット掃除機の技術を応⽤した芝刈りロボットなど、新市場への展開が容易になり、欧⽶企業の3分の1の価格で世界市場に製品を供給できるようになっています。

 また、深圳の企業は「安く作る」段階を脱し、海外のニーズに基づいた製品開発へと転換しています。EV、リチウム電池、太陽電池といった高付加価値分野が成⻑を牽引し、BYDを中⼼に新たな産業クラスターが形成されています。BYDとDJIが共同開発した⾞載ドローンシステム「霊鳶(Lingyuan)」は、自動⾞とドローンを融合させた革新的技術であり、安全補助から動画撮影までを担う「空飛ぶ助手席」として注目されています(屋根にドローンを装備)。

霊鳶(Lingyuan)

 さらに、深圳は越境EC(E-commerce)の中⼼都市でもあります。
 Amazonに出店する中国企業の約3分の1が深圳を拠点とし、東南アジアのLazadaや中南⽶のMercado Libre、アフリカのJumiaなど主要EC企業の中国支社も深圳に集まっています。18本の欧州向け貨物列⾞、24の海上航路、59の航空路線が整備され、世界市場への物流網が整っています。
 こうした企業・技術・⾏政の三位一体のエコシステムこそ、深圳を「中国製造2.0」の象徴たらしめている要因です。成功企業から生まれる人材の循環、スマートフォン産業に支えられた供給網、そして政府による越境EC支援。この三つが組み合わさることで、深圳は中国経済全体の停滞に左右されない、持続的な成⻑エンジンとなっています。

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