サイト内検索(有料コンテンツは除く)

中国ビジネス実務指南


中国ビジネス実務指南― 麗澤大学外国語学部 教授 梶田 幸雄

【第213回】社会分野への投資機会拡大〜医療、シルバー、教育、文化、スポーツ

国務院は、2017年3月7日に「さらに社会分野への投資活力を奮起させることに関する意見(关于进一步激发社会领域投资活力的意见)」(以下、「意見」という。)を発布した。
 この意見でいう社会分野とは、医療、シルバー(養老)、教育、文化、スポーツ(体育)の5分野である。意見は、この5分野(業種)への事業参入機会を外資企業を含む民間企業に拡大し、当該分野に参入する企業が資金調達及び土地利用をしやすくし、イノベーションを促していこうとするための施策(全37条)を示したものである。
 国家統計局のデータによると、2016年の全国の教育、衛生及び社会事業、文化・体育及び娯楽業における民間投資は対前年比でそれぞれ13.7%、19.9%、4.1%増と全社会の民間投資の対前年比3.2%増よりも高い成長率を示している。しかし、当該分野の民間投資総額は8,976億元と相対的に規模は小さく、全社会分野の固定資産投資の38.3%を占めているに過ぎない。他の分野では民間投資が61.2%を占めているのに対して少ない。この数字からすると、成長のための潜在力は大きいということが言える。
 当面の中国のマクロ経済拡大の課題の一つに供給サイド改革があげられているが、5社会分野を民間投資に開放することは、中国の経済成長に対して少なからず貢献することへの期待もある。また、5分野に関して国が全て担うことには限界があり、当該分野は社会で担って欲しいという国も要請も強くありそうである。
 意見によれば、具体的な投資拡大方式として、PPP方式が挙げられている。PPPとは、Public Private Partnershipsの略称で、公共サービスの民間開放のことをいう。公共サービス分野は、政府およびその事業機関によりほぼ独占されているような状況が長く続いており、当該分野への参入には多くの障壁があった。PPPの具体的な活用手法は、 (1)公有公営(所有:行政、管理運営:行政)、(2)公有民営(所有:行政、管理運営:民間)、(3)民有公営(所有:民間、管理運営:行政)、(4)民有民営(所有:民間、管理運営:民間)に分類できる。PPP方式の導入により、政府、事業機関、及び民間企業の3者が経営資源を有効利用することが期待される。
 2016年末時点で全国のPPPプロジェクトは、1,351件、投資総額は2.2兆元であった。これらプロジェクトは主には、エネルギー、交通、水資源管理、環境保護、農業、森林、都市化などのインフラ建設に関するものである。今後、社会分野でPPP方式が利用されることになると、さらにプロジェクトは増えるだろう。
 政府が提供できる経営資源に土地・建物がある。5分野の投資に対して、適切な土地の地目を変更(例えば、農地を商業地に)した後に5分野の事業者に割り当て、または払下げ譲渡、賃貸などの方式が考えられる。また、国有や地方政府所有の遊休建物の用途制限を緩和して活用することも考えられる。土地譲渡費、賃貸料、固定資産税、賃貸期間などで優遇措置を講じることもある。意見は、当然にこれらの諸手続きを簡素化し、事業参入がしやすくなるような便宜を図るとしている。
 今後の課題として、中央政府と地方政府が緊密な協力関係を構築し、土地、税制、金融などの政策的分野で協力していくことが求められる。また、医療、シルバー、教育、文化、スポーツの5分野が当該分野だけで独立して事業展開するだけでは経営資源が必ずしも効率よく利用されることにはならない。観光など周辺産業分野との協力も必要であると考えられ、5分野との融合をどのように図るかも重要な論点となりそうである。この限りにおいて、医療、シルバー、教育、文化、スポーツの5分野への事業参入機会が増えるだけでなく、周辺産業分野への事業参入機会も出てくるだろう。

梶田 幸雄氏 プロフィール 

  • ●現職
  • 麗澤大学外国語学部 教授
  • ほかに中小企業総合事業団国際化支援アドバイザー、富山県貿易・投資アドバイザー、北京航空航天大学法学院兼任教授などを兼務
  • ●略歴
  • 学歴:中央大学大学院博士後期課程修了。博士(法学)
  • 職歴:財団法人日中経済協会、日本能率協会総合研究所、日本経営システム研究所
  • ●専門分野
  • 中国法、国際企業法、商法
  • ●研究業績(主な著書)
  • 『チャイナウォール』(通商産業調査会、1993年)、『中国への事業展開と法制度』(国際商事仲裁協会、1995年)、『中国進出企業のトラブル事例と解決法』(日本能率協会マネジメントセンター、1995年)、『中国投資はなぜ失敗するか』(共著、亜紀書房、1996年)、『日中対訳 中国進出企業の各種契約モデル書式集』(日本能率協会マネジメントセンター、2003年)、『中国国際商事仲裁の実務』(中央経済社、2004年)など。



▲ページトップへ

 



中国マーケットを開拓するには適切な代理店を見つけ出すこと!中国代理商マッチングサービス



中国販路開拓レポート

中国販路開拓コラム

中国販路開拓マーケット(市場)等に関するメルマガ会員登録

ページトップへ