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中国ビジネス実務指南


中国ビジネス実務指南― 麗澤大学外国語学部 教授 梶田 幸雄

【第223回】販売戦略の再考 〜 蘇寧易購の直接供給モデル

 商務部国際貿易経済合作研究院は、「商品供給サイド改革の“蘇寧易購(Sunig Tesco)〜商品直接供給”モデルのフィージビリティスタディ報告」を発表した。これは、2017年初から半年かけて、北京、天津、南京、杭州、温州などの都市の実体店舗、卸売市場、工場で調査研究をした結果の発表である。

蘇寧易購の商品直接供給モデル(以下、「蘇寧モデル」という。)とは、B2CのEコマース・ウェブサイト・ビジネスである。

全国600万の実体店舗、ネット上の店舗、卸売業者が「蘇寧易購−万物直供」を通じて商品を購入する。全国67都市に“体験店”があり、この体験店は12億人の顧客が車で60分内で行ける距離にある。顧客は、ここで現物商品に触れることができる。体験店は、面積3万平方メートル、毎月300万の新商品が揃えられている。取扱商品は、当初は、アパレル、靴、カバン、雑貨類から始まったが、現在では家電、コンピュータ、文具・事務用品、時計、楽器から乳幼児向けの商品まで全ての商品を扱うようになっている。

商務部は、蘇寧モデルは、供給サイド改革のモデルとなり、約40%の実体店舗の小売価格を引き下げ、卸業者の変革を促し、2000万人の雇用を生み出すと分析している。

工場から小売店までが一体化した流通体制になるので、流通コストが下がる。卸売価格は40%低減し、小売価格は10%低減し、これにより市民の生活コストも下がる。生産メーカーも大量生産が実現でき、在庫も減少し、生産・在庫管理費などが減少するので、製品の品質工場、新製品開発などに投資できるようになり、製品のグレードアップが図れる。そうであると、ニセモノ、劣悪商品の淘汰にもつながる。さらに、生産メーカーが増産することで1,000万人の雇用機会が生じ、600万の加盟店が新たに1,000万人を雇用することになる。中国ブランドの発揚にもなるだろうという。

今、中国経済は緩やかに減速し始め、景気が停滞気味であると言われる。それでも失速する可能性は小さそうだと評価される(日本経済新聞 2017年9月15日)。2017年上半期の中国経済を支えたのは消費である。GDPに占める消費の割合が63.4%となった。第1四半期には消費の貢献度が70%を上回っていた(経済参考報 2917年9月14日)。この消費の貢献度、GDPの構成は、先進資本主義国と同じになりつつあるということである。
しかし、蘇寧モデルに死角はないだろうか。なお懸念される問題はあり、中国政府として取り組まなければならない社会問題がある。

9月11日から14日までの間、華東政法大学法律学院で特別授業を行うために上海を訪問した。大学キャンパスは上海市長寧区の中山公園の隣にある。ここに上海巴黎春天百貨(プランタン)があったが今年の夏に閉店になっていた。百貨店を代表とする小売業が、ネットで商品を購入する消費者が増えたことから、従来の店舗における対面販売が成り立たなくなってきているようである。蘇寧モデルのような星期が発展してきたことによる。

ただ、業態の転換で発展し続けるか。消費者は高品質の商品を求めるし、若者は個性を重視するようになってきており、この場合には品種も増やさなければならない。人気のあるブランドが常に変わり、短命で終わるブランドが少なくない。これに対応できるメーカー、ブランドが育たなければならないが、現時点では必ずしも容易ではない。したがって、不良品の返品制度、損害賠償制度を充実させる必要がある。そこに外国ブランドの成功の余地があるだろうか。外国ブランド、デザイナー・ブランド、その他がそれぞれ3分の1ずつの割合であるようだ。

また、中国政府は、高所得所得層が増え、消費が喚起されていることで満足していいのか。中低所得層の引き上げを図らなければならない。この場合には、社会保障体系を整え、住宅、医療、教育などの政策を整備しなければ、さらなる消費は喚起できない。これも中国市場参入の環境アセスメントをする際の重要なポイントとなる。

梶田 幸雄氏 プロフィール 

  • ●現職
  • 麗澤大学外国語学部 教授
  • ほかに中小企業総合事業団国際化支援アドバイザー、富山県貿易・投資アドバイザー、北京航空航天大学法学院兼任教授などを兼務
  • ●略歴
  • 学歴:中央大学大学院博士後期課程修了。博士(法学)
  • 職歴:財団法人日中経済協会、日本能率協会総合研究所、日本経営システム研究所
  • ●専門分野
  • 中国法、国際企業法、商法
  • ●研究業績(主な著書)
  • 『チャイナウォール』(通商産業調査会、1993年)、『中国への事業展開と法制度』(国際商事仲裁協会、1995年)、『中国進出企業のトラブル事例と解決法』(日本能率協会マネジメントセンター、1995年)、『中国投資はなぜ失敗するか』(共著、亜紀書房、1996年)、『日中対訳 中国進出企業の各種契約モデル書式集』(日本能率協会マネジメントセンター、2003年)、『中国国際商事仲裁の実務』(中央経済社、2004年)など。

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