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  ■中国市場への視点 (株)チャイナワーク


「消費者権益保護法実施条例(審議送付稿)」の発表
   〜賠償目的の消費者は保護法の対象外へ〜


中国ではこれまで、「プロのクレーマー」ともいうべき人々の存在が問題になってきたのをご存知でしょうか。中国語では「職業打假人(※)」と呼び、直訳すると「職業的に偽装品を摘発・撲滅する人」となります。「クレーマー」とは「商品やサービスに苦情を言う消費者」を指しますので、元のニュアンスは異なるのですが、「職業打假人(以下「プロクレーマー」といいます。)」という言葉は今では、「賠償狙いのクレーマー」と、ほぼ同等の意味を持つようになってしまいました。
 ※「假」は偽物、虚偽、の意。

1993年に制定された初代「消費者権益保護法」第49条には、「経営者が提供した商品・サービスに詐欺行為があった場合、消費者はその商品・サービスの価格の2倍の賠償金を要求することができる」という規定が設けられました。これに目を付け、偽装品や問題のある商品をあえて購入し、店やメーカーに対して賠償請求の訴訟を起こす、「プロクレーマー」が誕生しました。
当初は、悪いのは消費者をだます企業側だという意見が多数を占め、また、賠償金そのものより商品の品質改善・消費環境の改善を訴えることに重きを置いて活動する人もいたことから、世論は「プロクレーマー」を英雄視していました。
しかし、徐々に、悪質な営利目的の事案が増え、ラベル表記などの企業側の小さなミスを突いて脅迫まがいの交渉をするもの、「仕込み」によって企業を陥れるものまで出てくるに至り、その存在の是非、功績と罪過をめぐる議論が繰り返されてきました。

こうした中、2013年10月に制定された改訂版の「消費者権益保護法」は第55条にて、企業への罰則を強化し、「商品・サービスに詐欺行為があった場合の賠償額は3倍」と規定しました。また、2014年1月に発表された、最高裁判所の司法解釈である「食品・医薬品の紛糾事案の審理に適用する法律問題に関する規定」では、「プロクレーマーも消費者とみなすこと」、「企業は購入者がプロクレーマーだからという理由で賠償を拒否することはできないこと」が明確にされました。
しかし、このほど発表された「消費者権益保護法実施条例(審議送付稿)」では、「プロクレーマー」は消費者権益保護法が対象とする「消費者」には当たらない、とする見直しが図られました。具体的には、第2条に「消費者とは生活消費の需要のために商品・サービスを購入・使用するものを指し、その権益は本条例によって保護される。しかし、金融消費者以外の自然人・法人・その他組織が、営利目的により商品・サービスを購入・使用する行為には、本条例は適用されない」と規定されました。
こうした調整が図られた直接の要因としては、プロクレーマーによる悪質な案件が後をたたないこと、また、行政・司法資源への負担や浪費が大きいことが挙げられます。プロクレーマーは一般の消費者と違い、問題の解決に賠償金しか望んでいませんので、何でも訴訟に持ち込んでしまいます。例えば、広東省深?市はプロクレーマー関連の事案が特に多いエリアですが、2010年にはプロクレーマーによる訴訟数が699件、これが2015年には25,505件まで急増、今年(2016年)はすでに6万件を超えているといいます。
今後大事なのは、一般消費者全体の目によって市場の監督を行うこと、企業に対する取り締まりを強化し、プロクレーマーがつけ入る隙を失くしていくこと、企業自身が良識を持ち、目先の利益に惑わされず、消費者からの信用を得るビジネスを進めていくことだといえます。

筆者は、今回のニュースに、また一つ、時代の変化を感じました。
10年前は、上海の街中でもブランド品の偽装品を主とする「偽物マーケット」が大賑わいで、観光名所になっているほどでした。現在では、マーケットのあった辺りはブランドの正規路面店も多数所在する高級ショッピング街へと変貌しています。街を歩く人々が手にする情報も増え、海外旅行へ行く人も少なくない今、本物のブランド品を身に着けるようになっており、偽物では恥ずかしいという感覚が育っているようです。企業をとりまく環境ももちろん大きく変わっています。ネット上での口コミ評価などが影響力を持つ昨今、消費者を欺くことは大きなリスクになります。
まだまだ課題の多い中国市場ではありますが、プロクレーマーに頼る時代はもう終わったのだ、と思います。
(S.I)

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