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中国ビジネス実務指南


中国ビジネス実務指南― 麗澤大学外国語学部 教授 梶田 幸雄

【第220回】労働人事紛争解決の迅速化

人力資源・社会保障部は、2017年5月に「労働人事争議仲裁弁案(事案処理)規則」(以下、「弁案規則」という。)及び「労働人事争議仲裁組織規則」を改正した。それぞれ、2009年及び2010年に公布・施行されていたものである。
 中国進出企業にとって最も悩ましい問題は、人事労務管理である。日系企業において、最近は大きな争議はあまりないようであるが、中国全体で見ると年々増加傾向にある。人力資源・社会保障部の発表では、第12次5カ年計画期に全国の各レベルの労働人事仲裁機関が処理した事案数は402.4万件、年平均80.5万件であった。2016年には仲裁申立てされた事案のうち82.8万件について仲裁判断が示されている。
 なお、ここでいう「争議」は、一般には日本語の「紛争」に相当する。日本では「争議」というと労働者が業務の正常な運営を阻害するストライキ、怠業、ピケッティング、職場占拠などの集団的行為を想起するが、これは、中国語の「集団労働人事争議」ということになる。この「集団労働人事争議」も日本の概念とはいささか異なり、(1)労働者が10人以上で、かつ共通の請求をするか、または(2)集団契約(労働協約)の履行に起因して生じる争議(弁案規則第5条)のことをいう。
 さて、上述のとおりの事案の多さに対して、仲裁人が不足しているという状況がある。人力資源・社会保障部によると、2016年5月末現在で仲裁人は2.37万人で、うち専業の仲裁人が1.41万人、兼業の仲裁人が0.95万人である。限られた仲裁人では審理に時間がかかり、労働者及び企業の双方にとって不利益をもたらす。そこで、弁案規則の改正に際しては、如何に迅速に事案を処理するかが大きな検討課題であった。
 この点に関して、重要な改正点として、以下の3点が指摘できる。
 第一に、(1)簡易処理手続を明確にしたことである。以下のいずれかの事由に該当すれば簡易手続きが取られる(弁案規則第56条)。①事実が明らかであり、権利義務関係が明らかであり、争議が大きくないこと。②係争額が当該省・自治区・直轄市の前年度の従業員の平均賃金未満であること。③双方当事者が同意したこと。また、簡易処理手続の適用に際しては、申立人の同意により、仲裁廷は陳述を短縮または省略し、電話、書簡、ファックス、メールなどの方式で仲裁文書を送達し、挙証期限、審理手続などを柔軟に決めることができるものとされた(弁案規則第59条)。
 第二に、(2)仲裁をもって終局判断とし、裁判所への訴えを認めないとする範囲を広げたことである。仲裁の終局性を認める範囲は、①労働報酬、労働負傷の医療費、経済補償または賠償金の請求に関する争議で、その金額が当該地の最低賃金の12ヶ月分を超えないときである(弁案規則第50条第1項)。この経済補償には、a)労働契約法が規定する競業制限期間内の経済補償、労働契約の解除及び終止の経済補償、b)労働契約法が規定する書面による労働契約の未締結時の賃金の2倍の賠償金、試用期間の違法な約定による賠償金、労働契約の違法な解除または終止による賠償金を含む(弁案規則第50条第2項)。②勤務時間、休憩休暇、社会保険等に関する国家の労働基準を執行するときに生じた争議も終局性とする(弁案規則第50条第3項)。
 第三に、(3)集団人事労働争議の処理手続を規定したことである(第4節第62条〜第67条)。集団人事労働争議が生じた場合には、労働者は3〜5名の代表を選んで仲裁に参加させることができる。集団労働契約の履行に関わって生じた労働争議は、工会が仲裁を申し立てる。工会がないときには、上級工会が指導して労働者代表が仲裁に参加する。3名の仲裁人で仲裁廷を組織する。集団人事労働争議の処理にあたっては、法学者や弁護士など第三者がはじめに調停を行う。調停が整わないときには、仲裁廷が判断を示す。
 日系企業の場合には、最近では中国事業からの撤退に際して労働争議が起こっている。撤退戦略を検討する場合においても、労働人事争議の処理方法をよく検討しておく必要がある。

梶田 幸雄氏 プロフィール 

  • ●現職
  • 麗澤大学外国語学部 教授
  • ほかに中小企業総合事業団国際化支援アドバイザー、富山県貿易・投資アドバイザー、北京航空航天大学法学院兼任教授などを兼務
  • ●略歴
  • 学歴:中央大学大学院博士後期課程修了。博士(法学)
  • 職歴:財団法人日中経済協会、日本能率協会総合研究所、日本経営システム研究所
  • ●専門分野
  • 中国法、国際企業法、商法
  • ●研究業績(主な著書)
  • 『チャイナウォール』(通商産業調査会、1993年)、『中国への事業展開と法制度』(国際商事仲裁協会、1995年)、『中国進出企業のトラブル事例と解決法』(日本能率協会マネジメントセンター、1995年)、『中国投資はなぜ失敗するか』(共著、亜紀書房、1996年)、『日中対訳 中国進出企業の各種契約モデル書式集』(日本能率協会マネジメントセンター、2003年)、『中国国際商事仲裁の実務』(中央経済社、2004年)など。

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