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  ■中国市場への視点 (株)チャイナワーク


変貌する蘇州と日本人事情(2)


  前号の疑問――。すなわち、大型小売店やサービス業が工業園区に集中して出店している理由を明らかにしてくれたのは、次に訪問した日系大手小売業の日本人責任者だった。中国政府は、蘇州工業園区(以下、工業園区)を第2の上海浦東新区に発展させる計画だという。
 工業園区は、浦東新区と同様の特別な行政権限が与えられており、江蘇省の許認可を省都である南京を通す必要がなく、工業園区の権限で取得することができる。つまり、蘇州市内の地方行政区が江蘇省と同等の権限を中央政府から与えられているというのだ。
 したがって、優遇政策の自由度も大きく、外資やローカル企業にビジネスチャンスが開かれている。その影響もあって、工業園区の建物の賃貸価格は蘇州新区(以下、新区)の約1.5倍に上昇しているのである。労働者の賃金も新区より高いことが知られているという。そのため、工業園区の人口は増加し続けている。
 実際に工業園区の市街地を歩いていると林立する高層ビルや整然とした街並みは、まるで上海の浦東新区にいるような錯覚を覚える。同行した弊社スタッフがこうつぶやいた。
「上海によく似ていますね。まるで工業園区が浦東で、旧市街地を挟んだ新区は浦西・・・」

お金を使わなくなった日本人

 蘇州新区の街中には、人材紹介会社が集積している地域がある。その一角で、蘇州で小売業を創業し、現在は顧問に就任している年配の日本人が蘇州の日本人事情を話してくれた。
蘇州には日本人学校(小学校と中学校)があるが、以前400名いた生徒が激減しているという。「――学校側も生徒の人数を明らかにしなくなったから、もう半分ほどになっているかもしれませんね・・・」
 こういう話を聞くと、日系企業が蘇州から撤退をしているからか、と早とちりする方もいるかと思うが、実態はそうではない。理由はいくつかある。
 まず、第一にいまの円安だ。アベノミクスの円安誘導政策のために、人民元の価値は上がり、日本円は下がった。この2年ちょっとの間に日本円の価値は半値近くになっているのである。わかりやすく表現すれば、1万円を人民元に両替すると以前は800元以上だったのが、いまや500元を割り込み、460元というときもある。
 人民元で給与を支給すれば企業側の負担は大きく、日本円で支給すれば駐在員の負担は大きい。だから必然的に高給取りの管理職が減り、給与の低い若者の駐在員が増えた。技術者もまた、派遣社員や委託契約を結んだ契約社員を駐在させる企業が増えているという。したがって、給与や手当も少なく、当然ながらコスト削減のために単身赴任でやってくる。家族で移住するケースが減れば、必然的に日本人の子供の数は減っていく。
 「蘇州では日本人相手の飲み屋がバタバタ潰れました。駐在する日本人は酒を飲まなくなった、いや、飲む余裕がないのです」
 日本人がカラオケやスナックで大盤振る舞いができた時代は終わったと言いたいようだ。

 そして第二に、社会保険料の負担である。
 中央政府は3年前、外国人からも社会保険料を徴収するという政策を打ち出した。北京を皮きりに各地で施行され、日本円で年間80万円以上の企業負担となる(自腹で払わされたら、駐在する日本人はいなくなるだろう)。企業側も対策を採らざるを得ない。
 ただし、上海だけは、いまだに社会保険料は徴収されていない。蘇州市に駐在する日本人は6〜8千人ほどだが、上海市は6万人ほどだといわれている。おそらく、この社会保険料の徴収が始まれば、大勢の日本人駐在員が帰任することになる。それを上海市政府は危惧しているのだろう。いや、日本人だけでない。上海は国際都市だから外国人の数が中国で最も多く、その影響は計り知れない。

 いずれにしても、蘇州に限らず、上海や他の都市でも日本人が貧しくなっている構図に変わりはない。円安誘導は国際的な日本の経済力を縮小させている。金融緩和を実施して通貨の価値を下落させるということは、一時的に景気を良くする効果があるかもしれないが、その副作用として経済成長を放棄しているのに等しいのである。
 当然ながら、日本に殺到する中国人観光客は、その(日本人が貧しくなっている状況)真逆の状況となって、中国より日本で買うほうが何でも安いと、日本での爆買いを謳歌しているのは皆さんもご存じの通りである。

 中国で日本人をターゲットにしたビジネスは成り立たなくなりつつある。日本よりも高いコーヒーを出している蘇州のスターバックスは若者であふれていた。中国市場で稼ぎたいなら、中国の富裕層や中間層を狙ったビジネスモデルに早急にシフトしていかなければならない。このまま円安が進行し続ければ、中国人の所得が、いやアジア全体の所得が日本人に追いつき追い越す。そんな時代が、もうすぐやってくるのかもしれない。

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