■中国市場の視点
中国の醤油市場と外資進出
1.中国醤油市場の規模と特徴
1)「小商品大市場」
中国料理に醤油が欠かせないものである。全国の東西南北を問わず醤油が大いに消費され、「小商品大市場」(中国で俗に醤油を「小規模食品」と称されている割に大きな市場に形成)と言われている。全国の醤油消費量は500万トン近く、消費大国だが、1人平均になると年間3.7キログラム(食品加工業用の醤油を含む)に止まり、同7.8キログラムの日本に遠く及ばないものである。しかし、これは逆に中国醤油市場の成長する潜在的可能性を示しており、2005年まで毎年の成長率が10%台に達し、金額的に300億人民元(1元約15円)の規模になると予測されている。
2)バリエーションに富んだ醤油品種
中国料理のバリエーションに比例するように中国醤油も種類が豊富である。「老抽王」(濃い口、日本たまり醤油に近い)や「生抽王」(薄口)は中国醤油の基本だが、醤油に様々な食材のエキスを混ぜたりして「シイタケ醤油」、「蕎麦醤油」、「魚汁醤油」、「豚の血醤油」、「昆布醤油」等が作られ、料理の用途に応じて使われているのが特徴である。市場に出回っている醤油は1000銘柄に上り、品種も何百種類に数えられる。スパーマーケットには専門の売り場まで設けられている。
3)市場は「地方割拠」状態
統計によると、中国全土の醤油メーカーは2000社以上あるが、年間生産量の3万トン以上の企業は20社、真の全国ブランドと呼べる製品はほとんどないに等しい。中国最大なメーカーとされる広東佛山市海天調味食品有限公司の年間醤油生産量は20万トンに止まり、全国シェアの7%しかない。
中国の醤油は穀物醸造で、計画経済体制下で穀物を省外、県外に出すことに制限が設けられていたことが、全国的なブランド醤油が育たなかった原因である。従来の物流インフラの立ち遅れもあって各市、県単位にほとんど醤油メーカーがあり、供給エリアも地元に限定されてきた。ただ、一方、広東や上海のような広いエリアのマーケットにそれなりのブランドが形成されたのも事実である。北京市の清の時代から続いた最大メーカー「王致和集団」は年間8万トンの「金獅」醤油を生産しているが、北京市場の47.2%のシェアも保有しており、その地方の強いブランドとなっている。
中国の醤油市場はこのような「地方割拠」状態が基本的に続いた中で大きく分けるといわゆる「四分天下」とも言える。つまり「海天」や「致美斎」というブランド品に代表された広東醤油、「淘大」、「家楽」、「老蔡」などの上海醤油、他の各地方の有名ブランドをまとめて言ういわゆる地産醤油(例えば北京の「金獅」、河北省の「珍極」、天津市の「天立」、福建省の「民天」、湖南省の「双鳳」など)、そして近年出現した「雀巣美極」(ネスレ)、「亀甲万」(キッコーマン)、「李錦紀」(香港)、「寛」(和田寛)などのいわば外資醤油である。この中で全国市場進出を果たしたブランドはやはり広東醤油と上海醤油に多く、外資醤油の成長にも目を見張るものがある。
2.外資進出による市場競争の激化
1)ブランド戦略を重視する欧米勢
外資進出の香港食品企業を別として、ここ数年、ネスレ、ハインツ、ダノン、Unilever社などの欧米勢企業の中国醤油市場進出が著しく、さっそくシェア争奪戦を展開している。フランスのダノン社は1994年上海海鴎醸造有限公司と醤油製造の合弁会社「淘大食品有限公司」を設立し、最近中国側企業の資本譲渡を受け60%の出資比率をもって上海地域における有名な「海鴎」と「淘大」というブランドを自社傘下に収めることに成功し、年間10万トンの生産量で中国最大の本醸造醤油メーカーになった。Unilever社は1998年に上海の「家楽」ブランドの買収に続いて華南地方の市場参入を図るため、2002年6月「広州市
美味源食品有限公司」などの3社の食品会社を買い取り「美味源」という醤油ブランドを手中に入れ市場攻略を始めている。このように中国各地方の固有ブランドを買収して育てるのは欧米勢企業の特徴である。
2)日本企業の進出が増える
中国醤油業界といち早く合弁をはじめた日本企業はワダカンで1995年から中国市場に「寛」マークの醤油を販売し141回にわたる厳しい検査を経ても一貫して優良商品と認められ、中国市場におけるブランド力を高めている。
キッコーマンは2002年5月に台湾統一企業と1100万米ドルを共同出資して江蘇省の昆山市に「昆山統万微生物科技有限公司」を設立した。世界有名ブランドの中国進出は中国醤油業界に強いインパクトを与え、中国メーカーの競争心に火をつけた結果になった。
今後も日本調味料メーカーの対中進出はますます増えると考えられ、中国市場の競争激化を加速することになるであろう。
3)中国醤油業界攻略の手法
これまで中国醤油市場に参入した外国業者は全部で8社になるのだが、しかし外資のマーケットシェアはまだまだ小さく、中国国産調味料にダメージを与えるにはほど遠い状態である。最大な理由はやはり上述した「地方割拠」というブランドの地域性にあり、これは中国醤油の外資に対抗する武器にもなっている。そのため、中国の各地方や民族地域をそれぞれ異なるマーケットと認識し地域戦略を立てるべきである。効率の良い進出または市場攻略の近道は固有の有名ブランドを買収し、育てることである。醤油は中国人の最も身近な調味料として日本人の嗜好と異なり、消費者のニーズにマッチする作り方が要求される。WTO加盟により規制緩和をスピードアップしている現在、中国進出は独資が好まれているが、この業界だけ中国醤油メーカーと初期段階に合弁を行ない、後に中国側に持分譲渡を持ちかけ独資に近づける手法は賢いかもしれない。
3.中国醤油の新しい国家基準
1999年EUは中国醤油の輸入を停止し、発癌物質の3-MCPD含有量の基準超過は問題とされていた。これに対応するのもあって中国政府は従来の醤油国家基準を修正し、2001年9月1日より新基準の運用をはじめ、市販商品「本醸造醤油」と「調製醤油」の表示が義務付けられている。
また、今年9月より中国政府は「鉄分強化」タイプの醤油の普及に力を入れ始め、今後この類の醤油製品のマーケットがますます拡大すると予想される。現在、11社の醤油メーカーは「鉄分強化」醤油の生産ライセンスを取得し、これから商品が市場に出回ることになる。
(株)チャイナワーク 孫 光
|